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【読了】「任せるリーダーが実践している1on1の技術」

今回はこちらの書籍の感想文。

任せるリーダーが実践している 1on1の技術

任せるリーダーが実践している 1on1の技術

 

 

前置き


会社でメンターとして他のメンバーの目標設定支援を任されていて、定期的にメンバーと1on1を行なっている。

 

以前に「yahooの1on1」という書籍を読んだが、改めて1on1について深堀したくて手に取った。

ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法

ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法

 

 

この書籍の面白かった点は、1on1についてが「アドラー心理学」の理論を用いながら語られていくところだった。

 

要約

第1章から、まずは1on1とはなにか。人事考課面談とは何が違うのか。期待される効果などについてから始まる。

期待される効果についての1つには会社と社員のエンゲージメントがある。

1 on 1により期待される効果として、最初に挙げられるのは会社と社員のエンゲージメント(絆・愛着)です。グーグル社が実施した高業績チームの秘訣を探るプロジェクト・アリストテレスで明らかになったことが一つあります。それは、高業績に最も大きく影響を与える因子が「心理的安全性: Psychological Safety」であったことです。「誰もが均等に話す機会があること」「自由に意見が言える」「否定されない」、これらの条件があることで初めてチームの業績が高まるのです。グーグル社では、心理的安全性を確保するという目的で 1 on 1を5つの重要マネジメント施策の一つとして位置づけています。

 

そして1on1の目的は2つのサイクル、すなわちデビッド・コルブが示した「経験学習サイクル」と、ダニエル・キム教授が提唱した「組織の成功循環モデル」のサイクルを回すこと、と述べられている。

人は知識から学ぶのではありません。経験から知識が導き出された時に初めて深い学びが起きるのです。経験を伴わない知識は机上の空論です。コルブが示したこのサイクルは始点を「経験」に置いているところがユニークであり、かつ実務的です。

2つ目のサイクルは、ダニエル・キム教授が提唱した「組織の成功循環モデル」です。このサイクルは最初の項目が「関係の質」から始まる点が極めてユニークです。

「組織の成功循環モデル」では、「関係の質」の向上によって「結果の質」も向上する。つまり、組織としてのパフォーマンスが向上する、ということ。

最初に「結果」を求めるのではなく「関係の質」を向上させるのです。すると、「思考の質」が上がり、「行動の質」が上がって「結果の質」も上がるのです。

そこから、「関係の質」と「心理的安全性」が業績につながる理論がアドラー心理学を用いて説明される。

人間が繰り返す行動や感情には、原因もあるが、それは影響因子にすぎず、決定因子は個人の自己決定にあり、そこには常に目的がある、と考えるのが目的論です。

アドラー心理学はこの目的論をさらに押し進めて、万人に共通する究極目標を明らかにしました。それは、社会への「所属」( Belonging)です。

人の間と書いて人間と読みます。人は社会の網の目に組み込まれ、共同体の中で初めて人間になる。ですから、人間は所属できない、という危機を感じると、頭の中でサイレンが鳴ります。「生命の危機だ!」と過剰に反応してしまうのです。

1on1を行うことによって、「所属」を実感できるようになった社員はパフォーマンスを最大化できるようになる。

上司が部下に対して行う「傾聴」「勇気づけ」などにより、 1 on 1で日頃から「所属」を実感できている部下は、過剰な劣等感を感じる必要もなければ、過剰に高い目標を掲げる必要もなく、現実的で常識的な目標を掲げます。ですから、落ち着いて課題に対処できるわけです。  すると、「心理的安全性」が実現され、さらに「関係の質」が高まり、結果の質も高まるというキム教授のサイクルが回り出します。

1on1では以下の5つのスキルが必要になる。

  1. 傾聴
  2. 勇気づけ
  3. 質問
  4. フィードバック
  5. 結末を体験させる

「結末を体験させる」では、お弁当を忘れた子供に対してお母さんが結末を体験させて教育する例が挙げられる。

失敗した時には叱ったり、助けてあげるだけでなく結末を体験させて以下のような質問をして本人に考えさせる。

あなたは『そのことから何を学んだのかしら?』『明日からどうしようと思うの?』」

もちろん、この技法は上司と部下が 1 on 1で用いる場合にも有効です。ポイントは、部下の体験に対して先取りして説教や教訓を垂れないことです。そうではなく、質問をするのです。「その体験から何を学びましたか?」「明日からどうしようと思いますか?」これがポイントとなるのです。   

続けてスキルを土台とした5つのメソッドが紹介される

そのメソッドとは、「傾聴」「経験学習サイクル」「課題の分離」「協力と目標の一致」「解決志向ブリーフセラピー」の5つです。

その中でも「課題の分離」はアドラー心理学の書籍でも読者に衝撃を与えた概念。

具体的には、対人関係のスタートにおいて課題の所在が誰にあるのか、を明確にすることです。それにより、教育する立場の人間が相手の課題に土足で踏み込む、などの過干渉やお節介を予防し、教育者と教育される者との間に良好な対人関係の土台を築くのです。

「課題の分離」は、好きな人に嫌われていると感じた時にも有用。

相手が私を好きになろうが嫌いになろうが、構わず気にしないことが大切です。人はあらゆる人から好かれることは不可能です。 100人相手がいたとすれば、通常は 2割程度の人が大なり小なり私に好感を持ち、 6割程度の人が中立的、残りの 2割程度の人が大なり小なり私を嫌うことでしょう。それは私に限らず誰もがそうなのです。であるならば、嫌われることを過度におそれたり、私に好感を持たない相手の感情を変えようと無駄な努力をしたりしないことが大切。自然体で本来の自分の人生の課題に向き合っていけばいいのです。

「協力と目標の一致」では、アドラー心理学でも提唱されている「距離感」について述べられている。

この辺り、1on1や目標設定は「やらされ感」が出ないようにするための距離感を掴むためにも重要な考え方だと感じた。

アドラー心理学が提唱する「協力」では距離感を大切にします。つまり距離が近すぎる「過干渉」ではなく、距離が遠すぎる「放任」でもなく、適切な距離感となる「協力」をするのです。

戦わず、服従せず」というものです。協力関係において「戦わず」とは、怒りなどのマイナス感情と共に指示・命令をして力任せに相手を動かそうとしない、ということを意味します。そして「服従せず」とは、共同体に迷惑をかける不適切な行動を取る相手、もしくは、やるべきことをやらない相手に対してあきらめず、関係を絶ちきらない、ということです。では、どうすればいいのでしょうか。「協力と目標の一致」を行うのです。

協力と目標の一致におけるスタートラインは課題の分離です(前項で既述)。その上で、お節介を焼きたくなる気持ちを抑えてから、次のステップへと進みます。  次にすべきは傾聴です。

部下は上司の協力を拒否しましたが、自ら責任を持って課題に立ち向かうことにより、「体験を通じた学習」のチャンスを手にするのです。「結末を体験させる」の具体的内容については第 4章で既にお伝えした通りです。

上司が部下に協力を申し出て、部下がそれに一回 NOと返事をした場合の続きです。その次のステップは「注文を取る」の続編となります。つまり、開いた質問である「何かお手伝いできることはありますか」に対して注文が出にくそうだった場合に、それをサポートする意味でより具体的な選択肢を提示して、もう一度だけ注文を取る、というステップへと進むのです。

上司が部下の課題をすべて肩代わりしてはいけない、ということです。つまり、「過干渉」にならず、「放任」し過ぎない適切な「協力」の距離感を取ること。

スキル、メソッドは土台となるマインドがあって初めて有効になる。

それは以下の5つ。

  1. 尊敬
  2. 信頼
  3. 協力
  4. 目標の一致
  5. 共同体感覚

 

「尊敬」とは「二度見」すること。

「尊敬」を英語で書くと Respectです。これを分解すると、 Re(再び) + Spect(見る)となることがわかります。つまり、尊敬とは「二度見する」くらい重く見る、軽くは見ていない、という意味が語源のようです。

 私たちが「不適切である」と相手をジャッジしてしまう行為のほとんどは、単なる失敗です。まずは、ここを「二度見」してみるのです。一度目の見方では、音を立ててドアを閉めた相手の行為を不適切である、と決めつけます。しかし、もう一度、見直してみる。相手の行為は不適切な行為ではなく、失敗である、と二度見することが尊敬の一つ目です。

行為と人格は分離して相手を見る。

「あらゆる行為の目的は所属である」。先に学んだアドラー心理学の考え方です。これに照らせば、その人は「不注意な人、うっかり屋さん」として所属したい、と子どもの頃に決意しており、不注意さを繰り返し子どもの頃から磨き、クセにしてきた人なのです。

ここで、気をつけるべきことは行為と人格を分離することです。つまり不適切な行為 ≠不適切な人格、と分けて見るのです。

「不適切な行為をしている(ように見える)人もその目的は所属であり、善である。あらゆる人の人格は善である」。

自分の行為と人格を分離して、自分を尊敬する。

「私は不適切な行為をしてしまった。しかし、目的は所属であり善である。私の人格は善である」、このように自分を尊敬するのです。すると、他者を尊敬できるようになります。

信頼と信用は異なる。

仕事では信頼と信用を分けて考える。

信用というのは過去の実績と担保という裏付けがあって初めて相手を信じること。つまり条件付きで信じることなのです。  信頼 Trustはその逆です。たとえ担保がなくても、過去の実績がなくても、無条件で相手を信じること。いわば白紙委任状。それが信頼です。

日常業務は信用で運営し、 1 on 1は信頼で運営する。

人に優しく(信頼)、仕事に厳しく(信用)。   1 on 1では、人に優しく(信頼)を優先させるくらいでちょうど良いでしょう。そして人事考課や就業規則、業績管理制度、インセンティブ制度などのルールを淡々と運用することで、仕事への厳しさを担保する。

そして最後にアドラー心理学でも重要な「共同体感覚」について述べられる。

「共同体感覚」は、アドラー心理学における治療と教育の目標であり「導きの星」です。  共同体感覚は、心の正常さのバロメーターです。アドラーは著作の中で「共同体感覚以外の基準を認めることはできない」とまで言い切りました。  共同体感覚とは「他者を助け、喜ばせることを喜ぶ心。協力する能力」のことです。そして、それが目に見えてわかるのは、競合的態度か、協力的態度か、ということです。

自分たちは主観的な思いこみの世界=自分の価値観の中で生きている。なので1on1では相手の価値観を肯定的な配慮で受け止めることが重要。

私たちは客観的な事実の世界に生きているのではなく、主観的な思い込みの世界に生きています。同じ街に住んで、同じ人に相対していても、まったく異なる印象を持つのです。ですから、私たちの意見や価値観を絶対的なものや客観的なもの、と思ってはいけません。主観から逃れることはできないのです。

 

まとめ

振り返ってみても、この書籍の秀逸な点はアドラー心理学を用いて1on1の効果を語っているところだと思う。

自分たちが求めている根源なところはやはり「所属」、共同体感覚を実感出来ていること。

共同体感覚を得られていることによって、人は自分の力を最大限発揮できるようになる。

ただし、人間の意識を変えるのは難しいので、組織では1on1などの「仕組み」を用いて、意識を変えていく場を作ることが重要なのだと感じた。